「好きなもの、嫌いなもの」
私、キャロ・ル・ルシエはニンジンが嫌いです。
なんて云うか、あの独特の味とか匂いとかが駄目なんです。
だからいつも食事の時にニンジンが出ると、エリオくんの皿に移したりして避けてきました。
だけど、ヴィヴィオが来てからはそれも難しくなってしまいました。
「ヴィヴィオは偉いね、好き嫌いなくて」
「うん、どんどん食べて大きくなろうね」
なのはさんとフェイトさんが今日もまた、ちゃんと残さず食べているヴィヴィオを誉めています。
私はヴィヴィオより年上で、お姉さんで、だからこんなことしていた自分が後ろめたくて……。私は少しだけ恥ずかしい気持ちになってしまいます。
だから。
「エリオくん、お願いがあるの!」
「お願い?」
訓練が休みである今日、私は一大決心をしました。
そのためにはエリオくんの協力がどうしても必要なのです。
「良いけど、何?」
エリオくんは相変わらずの優しい顔で、頷きます。
「私と、私と付き合ってください!!」
「…………」
あれ? 何故かエリオくん、顔を真っ赤にして固まってしまいました。
どうしたんでしょう?
「え、あの、キャロ?」
私の隣で飛んでいるフリードも心配そうです。
「そ、それはその……どういう?」
何故かしどろもどろなエリオくん。私何か変なこと言っちゃったのかな?
「えと、私と付き合ってほしいんだけど……だめ?」
「だ、駄目じゃないよ! 全然駄目じゃない、うん!」
「よかった。それじゃ、お昼頃に一緒に来てほしい場所があるの」
「う、うん。良いよ」
それから、エリオくんと別れて私は自室へと戻って行きました。
最後までエリオくんの顔真っ赤だったけど、大丈夫なのかな、と心配しながら。
「ふふふ、これは面白くなりそうね」
そんな二人の微笑ましい様子を見ていたシャリオ・フィニーノは何やら怪しい笑みを浮べている。
(さっきキャロがエリオに告白してたわよね……ってことは、やっぱり)
エリオとシャリオ、二人に誤解を与えていることを、キャロ本人は知らない。
そしてお昼。エリオとキャロの二人はミッドチルダ中心地にあるレストランに来ていた。
お客の入りは少ないのか席は空いており、二人は入り口の向かいの席に座る。
「えーと、キャロ?」
「何、エリオくん?」
「どうして、ここに?」
エリオはとりあえず、どうしてここに来たのかその理由を訊いた。
「実は……」
「実は……?」
あまりにも真剣なキャロの表情。エリオは思わず生唾を飲む。
「ニンジンが食べられるようになるの、協力して!」
「………………」
エリオ、またも固まる。今度は違う意味で。
キャロもまた、何の反応も示さないエリオに怪訝な顔を浮べる。
「えと、付き合ってって言うのはつまり……」
「ニンジンが食べられるようになるのを協力して、って意味なんだけど」
日本語と言うのは時に紛らわしくもあり、伝わり難いものでもある。
暫く二人は向かい合ったまま、沈黙し続けた。
店員が来て注文を尋ねに入るまで、ずっと。
どうにか沈黙が破られて数十分後、注文した料理が配られた。
エリオが注文したのはエビフライ定食大盛り。キャロが注文したのはニンジンがたっぷり入ったカレーだった。
「……ニンジン、多いね」
カレーとにらめっこしながら、キャロはぽつりと洩らす。
「カレーだからね。キャロ、あまり無理しない方が良いよ」
「だ、大丈夫。ヴィヴィオだってちゃんと食べているんだもん、私だって!」
スプーンにカレーのルー、ライス、そしてニンジンを乗せたまま、しかしキャロの腕は動かない。まるで口の中に入るのを脳が拒んでいるかのように。
「キャロ、無理に嫌いな物を食べる必要はないよ。ゆっくり、確実にすれば良いんだし。それに大人になったら嫌いなものも食べられるようになる場合もあるっ
て、フェイトさん言ってたよ」
「ありがとうエリオくん。けど、やっぱり好き嫌いはいけないと思うから」
微笑み、キャロはスプーンを口へと運ぶ。ええいままよ、な感じで。
「…………ん、ごくん」
苦い表情をしながらキャロは飲み込む。
「大丈夫、キャロ?」
「うん、なんとか。これで私も大人だね」
何が大人なんだろう、とエリオはツッコもうとしたが、やめた。
それからエリオも食事に取り掛かる。機動六課のこと、仲間のこと、そして、これからのことを話しながら。
二人がレストランで食事をしている中、シャリオは機動六課内でエリオとキャロの二人が付き合い始めたことを、局員全員に言いふらしていた。
勿論全て彼女の勘違いであるのだが、それがばれ、六課隊長陣にちょっとしたオシオキがあるのは後の話……。
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