「新しいチーム名」
 
 初めましての人は初めまして。機動六課フォワードリーダー、ティアナ・ランスターです。
 現在あたしはスバル、エリオ、キャロと共に何故か(ここ強調)八神はやて部隊長の部屋にいたりします。
 八神部隊長はどこかの汎用人型決戦兵器の組織の偉い人がするポーズをしながら、このモノローグが始まる五分前、つまりここに呼び出されてからずっと黙っ たままです。
 スバルがごくっと息を呑んだ音が静かな部屋に響きます。そして、八神部隊長は重々しく顔を上げ、口を開きました。
「笑いが足らんねん……」
 超がつくほどの真面目な顔で八神部隊長は言いました。
 あたしは思わず「は?」と素っ頓狂な声を上げてしまいます。
「せやからな、機動六課には笑いが足らんと思うんや」
「いえあの、仰っている意味がよく解らないのですが」
「あかん!」
 いきなりびしっと人差し指を向けられた。
「ティアナ! そんなツッコミじゃあかん! 私が一からツッコミについて教育したる! 数年前に見せたあのツッコミをもう一度見せるんや!!」
 いや、貴女にツッコミなんて見せてないしそもそも数年前どころかあたしと貴女が出会ったのは半年前だし、教育するならもっと他のことを教えてください。
「そうだよティア。忘れちゃったの? あの日のことを」
「あの日って何?!」
「ほう、スバルの前やとええツッコミが出来るやないか」
 にやり、と言う擬音が物凄く良く似合う表情で八神部隊長が口の端をにぃっと曲げました。
「うーん丁度フォワード陣は四人……フリード入れたら四人と一匹か。ステーキカルテット+α、なんてどうや?」
「いえ、どうや? なんて言われても意味が解らないのですが」
 大体、なんでステーキなんだろうか。
「四人組漫才コンビはカルテット。ステーキと言うのはスバルさんの『ス』、ティアさんの『テ』、僕の名前の『エ』、そしてキャロの『キ』からでしょう。フ リードは+αですね」
「なんで解るのエリオ!? つかそんな真面目な顔で間抜けな理解を示さないで!」
「フリードが+αってなんだかおまけみたいですね」
「きゅく〜」
 キャロの膝に抱えられていたちび竜が落ち込んでいるような顔つきになる。
「せやったら、ステーキカルテットドラゴンなんてどうや?」
「なんだか凄くかっこ悪いドラゴンのネーミングになっちゃってません!?」
「きゅく〜♪」
「フリード喜んでる、よかったぁ〜」
「良いの!? ちび竜あんたそれで良いの!?」
「おーすごくいい! どう、エリオ?」
「はい、すごくいいと思います!」
 フォワードのフロントアタッカーどもは馬鹿ばっかか!
「よっしゃ! 機動六課の新チーム、ステーキカルテットドラゴン結成や!」
「いえあの、フォワードチームで結構なんですけど」
 いやだ、そんなかっこ悪いネーミングのチーム絶対いやだ。
「なのはさんとフェイト執務官が黙っていないと思いますけど」
「あー、あの二人は最初からうちに反論はできんで」
「な、何故ですか?」
「上司権限で色々と二人の弱みを握っているしな。なのはちゃんはユーノくんと、フェイトちゃんは義兄のクロノくんと色々……な」
 色々ってなんだろう。それ以上聞いてはいけない気がした。
 兎にも角にも、最後の望みも絶たれたと言うことだ。
 因みに、「なのはちゃんはユーノくんと」の件(くだり)からスバルが激しいほどの嫉妬の炎を放出したが、見なかったことにしておく。
「と言うわけで、この案を上に持って行って可決してもらうわ。――と言うわけで今日はここで解散」
「はい!」
 椅子から立ち上がってあたし達は敬礼をする。
 あたしは上の人たちがこの馬鹿げた事を一蹴してくれるのを祈るだけだった。

 ――数日後――

 どうもこんにちは、ティアナ・ランスターです。
 冒頭と似たような切り出し方でごめんなさい。
 今あたしは、正確にはフォワード陣四名は八神部隊長の部屋にいます。今日はなのはさんとフェイト執務官も一緒です。
 どうやら数日前に八神部隊長が提出したステーキなんとかの件で結果が出たようで、その発表らしいです。
「結論から言うで」
 誰かが生唾を飲み込んだ。それがあたしの隣に座っているスバルだと気付くのに数秒と掛からなかった。
 結果なんて解っている。上層部がそんな馬鹿げた案を通すはずが無い。"不採用"、これで決ま――
「見事、上からも認められて正式に『ステーキカルテットドラゴン』として動き出すから、よろしく頼むで!」
 ってなあああああああああああああい!?
 ち、ちょっと待て! 時空管理局の上はアホばっかですか!?
「あの、八神部隊長……ご冗談ですよね?」
 あたしは心の声とは裏腹に発した声は割と落ち着いていた。
「冗談ちゃうで。ほんまや。クロノくんとカリムも絶賛しとったで」
 一人は弱み握られている執務官の義兄だし、もう一人は貴女のご友人ですよねぇ!?
「元帥の人らも素晴らしいって誉めてくれとったわ」
「馬鹿だ! 目上の人を非難するのはいけないと解っていますけど絶対馬鹿でしょ、その人ら!」
「ティアナ」
 叫ぶあたしの言葉を遮るように、なのはさんの声がした。
「だ、ダメだよ、そんなこと言っちゃ」
「そうだよ」
 今度はフェイト執務官が口を開く。
「せ……せっかくはやてが一生懸命考えてくれた新チーム名で新しい動きなんだし、ちゃんと言う事聞かないと」
 だったらちゃんとあたしと目を合わせてください。その目は今どこの海を泳いでいるんですか。てか、どもらないでください。
「そろそろ行数……やない。時間もないし、今日は報告だけや。詳しい話はまた今度な」
 あたしは願う。夢オチでも良いのでどうか夢であってください――と。


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